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契約書で相手方会社の本店所在地を管轄する裁判所とする規定のデメリット

当社が当事者となっている契約書に、裁判の管轄について、契約の相手方会社の本店所在地を管轄する裁判所とする旨の定めがあるのですが、当社にとって何かデメリットはあるのでしょうか。


 

 管轄とは、国内にある裁判所の中で、どの裁判所が裁判権を有するかの分掌の定めを言います。
 契約当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができます(民事訴訟法第11条第1項)。この合意は、書面で行わなければいけません(同条第2項)。
 契約書においても、契約に定める事項について紛争が発生した場合に管轄を有する裁判所を、「合意管轄裁判所」として定めることが一般的です。

 当事者が合意できるのは、
(1)地方裁判所と簡易裁判所のどちらの管轄にするか
(2)どの土地を管轄する裁判所の管轄とするか
の2点です。
 また、合意の内容として、専属的な管轄を定めることもできますし、付加的な管轄を定めることも可能です。いずれにせよ、争いを避けるためには、どちらの合意内容であるか、契約書に明示しておくべきでしょう。
 具体的には、契約書では「本契約に関し訴訟の必要が生じたときは、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」などの文言が用いられることが多いです(地方裁判所を専属的合意管轄として定める場合。)。



 さて、本問のように、契約の相手方会社の本店所在地を管轄する裁判所が合意管轄裁判所として指定された場合、相手方会社の本店所在地が遠方にあるとすると、相手方会社との間で当該契約に関して訴訟になった際に、様々なデメリットが生じることが予想されます。
 例えば、裁判所への出頭費用や弁護士に依頼した場合の弁護士費用がより高額になる可能性があります。
 従って、契約書で管轄を定める場合には、訴訟提起等の必要が発生する事態に備え、自らの会社所在地を管轄している裁判所を、第一審の専属的合意管轄裁判所として定めるべきでしょう。



 なお、本店の他に全国各地に合計49の支店を有する消費者金融業者が、「…取引約定に基づく各取引に関して訴訟の必要性が生じた場合は、事物管轄に拘わりなく、債権者の本支店の所在地を管轄する裁判所を管轄裁判所とすることに異議なく同意するものとします。」との契約書所定の合意管轄条項に基づいて管轄を選択し、原告として提起した訴訟につき、原告のこれまでの融資実態から、「被告(債務者)の無思慮急迫状況のもとにされた管轄の合意」として無効というべきであるのみならず、全国各地に50もの本支店を有する原告が任意かつ一方的に裁判所を選択して訴訟提起できるという内容の管轄の合意は、「それ自体、一般的に被告から実質的な防御の機会を一方的に奪うもの」として、かかる管轄の合意は無効と判断した裁判例があります。