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改正民法で約款についての規定が新設されたと聞きました。従来の請負工事約款を変更する必要はありますか。

Q

⑴ 当社は,建設業を行っているのですが,請負契約書の他に,民間連合の請負約款を参考に独自に作成した請負工事約款を利用しています。今回の改正後の民法では,約款についての規定が新設されたと聞きましたが,当社が,これまでの扱いと異なる取り扱いをする必要はあるのでしょうか。

⑵ 当社が取引を行う発注先との間では,これまで,当社が改訂を重ねた定型で利用している基本契約書を用いて基本契約を締結しているのですが,このような定型的な契約書も約款に該当するのでしょうか。

 

A 定型約款とはなにか

 2020年4月施行の改正民法(以下,単に民法と言います。)には,これまでも,実務上利用されてきたいわゆる「約款」のうち,「定型約款」についての規定が新設されました。

約款とは,一般的には,多数の相手方との契約の締結を予定してあらかじめ準備される契約条項の総体等と定義されますが,このうち,民法の規定する「定型約款」とは,「定型取引」において,契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体と定義されます。

そして,「定型取引」とは,ある特定の者が,①不特定多数の者を相手方として行う取引であって,②その内容の全部又は一部が画一的であることが,その双方にとって合理的なものを言います。

つまり,この規定は,あくまで「定型取引」に該当する,とされる取引についてのみ適用されることになり,それ以外の取引については,従前の取り扱いが直ちに変わるわけではありません。

定型取引に該当するための要件は,非常に分かりにくいのですが,①の要件は,取引の相手方の資質等の個性を重視せずに多数の取引を行うかどうかが問題になり,個々の取引の相手方の個性が重視される取引かどうかが基準になります。典型例として,労働契約は,個性が重視される契約であると説明されますが,具体的にどこで線引きされるのかは,明確ではなく,事例の集積が待たれます。

次に,②画一性が,双方にとって合理的であると言える取引である必要があります。約款を用いる一方にとって合理的であっても,他方にとっては合理的といえない場合には,定型取引に該当しません。この点も,必ずしも明確な基準ではないのですが,事業者間取引のみにおいて用いられるような,ひな型は,一方の都合で作成されるケースが多いため,定型約款には含まれないと理解されていますが,より具体的な事案に基づいて判断する必要があると考えます。 

 

ご質問に対する回答

 先ほど記載した要件からすると,⑴のご質問については,対事業者における契約については,定型的な取引というよりは,個別事業者の個性に応じて取引をされるケースが多いと思いますので,①の要件に該当しない,とされるケースが多いと思います。一般の消費者向けの約款については,①の要件に該当するかしないかは,約款の内容や,どのような請負契約を念頭に置いているのかによって判断が分かれると思いますので,もう少し詳細に事情を確認する必要があります。また,仮に①の要件は満たすとしても,②の要件との関係で,約款の内容を確認させていただく必要がございます。

⑵のご質問については,一般的な理解からすれば,①の要件に該当しないことが多いと思います。また,貴社にとって有利な条件を設定している場合,そのような内容を画一的にすることが,相手方にとって合理的とは言えないことがほとんどかと思いますので,②の要件の点からも,やはり該当しない場合が多いと思います。

 

具体的な対応

 では,具体的にどのように対応すべきなのでしょうか。この点は,そもそも定型約款に該当した場合に,どのような効果や規制が生じるのか,という点の検討が必要です。

定型約款に該当する場合のメリットは,①契約の成立要件についての特則が適用されること,②一定の要件のもとに,相手方の承諾が無くとも約款の内容を一方的に変更することができるという点にあります。

これに対してデメリットは,不当条項規制の適用があることと,内容の表示義務があることが挙げられます。

ご質問のケースの場合,⑴については,通常は契約書に調印し,その際に契約書の内容の他,約款によるとして約款を添付するケースが通常かと思いますし,⑵については,基本契約書に双方記名捺印することが通常かと思いますので,約款ないし基本契約書の内容が契約内容になっているかいないかで争いになるケースは少ないと言えます。また,約款の内容を変更することができるのも,全くの自由ではなく,法の定める要件をクリアする必要があります。ご質問のケースで一方的な変更が認められるような場面はあまり想定できないので,定型約款に該当することのメリットはそれほどないかもしれません。その意味で,約款の内容を認識していなかった,等という反論をされないように,きちんと約款の内容が,契約の内容に組み入れられることを明記,説明して内容も確認していただいた上で契約すれば,少なくとも定型約款に関する改正との関係では,基本的にこれまで通りで問題が無いと考えます。

また,デメリットについても,定型約款に該当しないとしても,定型約款の場合に不当条項とされるようなケースでは,相手方が消費者であれば消費者契約法等他の法律による制限で効力が認められない場面や,信義則等の一般条項により,適用が制限される可能性がいずれにしても存在すること,表示義務についても,ご質問のケースについては,いずれも表示しているでしょうから,デメリットというほどのものではないと思います。

結論的には,約款の内容を示して契約書と一体のものとして契約に組み入れる,また,基本契約書についても,双方記名捺印をして合意する,という対応をする限りにおいては,少なくとも約款規制の点については,改正に伴い,従前の扱いを変更する必要はそれほど無い,ということになろうかと思います。

もっとも,詳しくは個々の事案をもう少し確認させていただかないと,確実なことは言えませんので,まずはこの点について知識のある弁護士事務所にご相談されることをお勧めいたします。

江原総合法律事務所の民法改正契約書レビュー

 

 

 

 

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