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従業員から残業代を請求された経営者の方へ

 「退職した従業員から、突然、未払い残業代を支払うよう請求された。どうしたらよいか」といった未払い残業代のトラブルは、経営者の方からいただくご相談の中でも、特に多い問題といえます。
 中には、円満に退職したはずの元従業員から請求を受けたケースもあり、経営者の方にとって、まさに寝耳に水の出来事ということも少なくありません。
 残業代は、労働者が、会社との間で定められた労働時間(所定労働時間)を超えて労働した場合に発生します。それが労働基準法で定められた労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)を超えるものであった場合には、さらに、25%の時間外割増賃金を支払わなければなりません。休日労働や深夜労働をさせた場合には、割増率が60%にのぼることもあり、従業員の給与や労働時間に大きく左右されるものの、請求される残業代は過去2年分となると、通常は、数百万円単位になることが多く、中小企業にとっては、会社の経営そのものへの大きな打撃となり深刻な事態となるケースも珍しくありません。

 残業代の請求を受けたときは、速やかに対処することが非常に重要です。なぜなら、紛争が長期化すると、かえって次のようなリスクが大きくなるためです。
まず、未払い残業代には①遅延損害金が発生します。給与支払日の翌日から退職日まで年6%、退職日の翌日からは実際に残業代を支払うまで、年14.6%という非常に高い利率が定められています(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項)ので、何もせずに時間が経過するだけで、請求額が膨らんでいくことになります。
 また、法律には、②付加金(労働基準法114条)という制度があります。これは、残業代の未払いが長期化しているなど、会社の態様が悪質な場合、裁判所は、未払残業代と同額を限度として、会社に対し、付加金とよばれるいわゆる制裁金の支払いを命じることができるというものです。したがって、民事訴訟に移行し判決が下される場合には、最悪の場合、請求額(未払い残業代)の2倍の金額の支払いを命じられるリスクがあるのです。
さらに、残業代請求は、民事訴訟ではなく、労働者から労働審判を申し立てられるケースが多いのですが、この手続は、第1回期日までに全ての主張反論を出すことが通常であり、いわば超短期決戦であるため、早い段階で準備に着手しないと、十分な主張・立証ができず、不利な判断が下されるおそれもあります(詳しくは、「訴訟・労働審判を申し立てられた方へ」のページをご参照ください)。
 したがって、未払い残業代の問題は、時間をかけることは適切ではなく、速やかな対応が必須といえます。

 次に、従業員の主張する残業代について、そもそも請求に根拠があるのか、あるとして、適正な金額であるのかを、精査する必要があります。たとえば、労働時間の計算方法がそもそも間違っている、当該従業員は、いわゆる法律上の「管理監督者」であるから残業代が発生しない、会社で残業は禁止していた、固定残業代制度を導入しており残業代は支払い済みである・・・など、会社側がなしうる反論は多岐に渡ります。
しかし、その詳細な検討には専門的な法的知識を必要としますし、実際に勝ち目のある主張であるかどうかは、実務経験がある者でなければ判断できないのが通常です。また、残業代の計算そのものも、非常に複雑である上、残業代は過去2年に遡って請求できるため、検討すべき資料が膨大になることも少なくありません。
 そのため、適切な反論をするためには、まずは労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。
 当事務所は、使用者側・労働者側それぞれの立場から、未払い残業代事件について豊富な経験を有しております。ご相談いただいた場合は、今後の適切な見通しを立てた上で、前述のようなリスクを考慮しながら、経営者の方にとって最善の解決をご提案いたします。
なお、残業代請求されるということは、会社の労働時間の管理や賃金体系に問題があるケースが多いといえますので、再び同じような紛争が生じることのないよう、労働契約書や就業規則を根本的に見直すべき場合もあります。当事務所にご相談いただいた場合、将来の紛争防止の観点からアドバイスをさせていただくことも可能です。

 未払い残業代の問題でご来所される際は、労働条件通知書や労働契約書、就業規則、直近2年分の給与明細、タイムカード等労働時間を管理していた書類、退職に際して取り交わした書面(あれば)などをお持ちいただければ、スムーズにご相談いただけます。