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【新型コロナウイルス対策】感染拡大時の休業対応について

1 はじめに

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策として、全国的な外出自粛が実施された影響により、多くの企業で売上が大幅に減少しています。令和2年4月には全国的に緊急事態宣言が出され、国及び各自治体から一部の業種に対して休業要請がなされたことで、事業の休業・縮小を迫られた企業様も多いと思います。

 このような状況で、経営者の皆様がまず頭を悩ませるのは、従業員の給与の問題ではないでしょうか。

 そこで、売上減少や事業の休業・縮小により経営状態が悪化する中で、従業員を休業させた場合、企業側にどこまで給与や休業手当の支払義務があるのか、経営者としてどのような対応が求められるのかについて、以下でご説明します。

2 法律の規定

 ⑴ 企業側の故意・過失等により従業員が就業できない場合は、100%の給与支払義務がある

 雇用契約では、労働者は労働を提供する義務を負い、これに対して使用者は給与を支払う義務を負っています。労働者が就業しない場合には、原則として使用者は給与を支払う必要はありません(ノーワーク・ノーペイの原則)。

 もっとも、民法536条2項によれば、労働者が就業しない理由が、「債権者(=使用者)の責めに帰すべき事由」による場合には、使用者は給与の全額を支払わなければなりません。ここでいう「債権者の責めに帰すべき事由」とは、故意・過失または信義則上これと同視すべき場合をいうものとされています。

 ⑵ 100%の給与支払義務はなくとも、60%以上の休業手当を支払う必要がある場合がある

 労働者が休業した場合の給与の支払いについては、労働基準法(労基法)にも規定があります。すなわち、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」(労基法26条)とされており、使用者の責めに帰すべき場合による休業の場合には、給与の60%以上の休業手当の支払いをするよう企業側に義務付けています。これに違反した場合には、30万円以下の罰金刑が科せられます(労基法120条1号)。

 労基法26条は、労働者の生活を最低限保障するための規定であることから、同条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条2項よりも広く考えられており、使用者に故意・過失等がある場合に限られず、使用者側の領域において生じたものといいうる経営上の障害を含むと考えられています。

⑶ 不可抗力による休業の場合は、休業手当の支払い義務もない

 これに対し、労働者の休業が、天災事変等の不可抗力によるものといえる場合には、⑴⑵のいずれの事由にも当たらず、民法536条2項による100%の給与支払義務はもちろんのこと、労基法26条による60%以上の休業手当の支払義務もなくなると考えられています。

 不可抗力よる休業といえるためには、少なくとも、

① その原因が事業の外部より発生した事故であること

② 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

という2つの要素をいずれも満たす必要があり、②については、個別具体的な事情を考慮して、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしているといえる必要があるとされています。

3 新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために従業員を休業させた場合の対応

 それでは、新型コロナウイルス感染症の影響で、事業を休業・縮小させたことに伴い、従業員を休業させた場合に、企業に給与や休業手当の支払義務はあるのでしょうか。これはケースによって結果が異なってくると考えられます。

 ⑴ 緊急事態宣言の対象地域であり、国等から休業要請を出されている業種の場合

 ①100%の給与支払義務の有無

 この場合、国等からの要請を受けてやむなく休業させるわけですから、通常は、企業の故意・過失や信義則上これと同視すべき場合があるとはいえず、給与の全額を支払う義務まではないといえる可能性が高いと考えられます。

 ただし、従業員との間で特別な定めをしている場合や、企業側が休業を避けるため容易にできる努力をしていなかった場合、合理的な理由もなく特定の従業員のみを休業させた場合など、個別具体的な事情によっては、給与の全額を支払う義務があると判断されることもあり得ます。

 また、仮に、給与の全額を支払う法的義務はないとしても、給与全額の支払いが受けられなければ、従業員の生活に与える影響は非常に大きいといえます。経営者が、従業員の事情に全く配慮せず、一方的に休業を命じて給与を減額するような対応を取れば、経営者と従業員との間の信頼関係が損なわれるリスクは否定できません。

 したがって、経営者としては、会社の経営状態を踏まえて、経営努力や各種助成金の活用等によって従業員の給与をできる限り保障する方策がないかを十分に検討した上で、それが困難な場合であっても、従業員に対して丁寧な説明を尽くすことが望ましいといえるでしょう。

 ②60%以上の休業手当支払義務の有無

 休業手当(給与の60%以上)の支払義務の有無は、結局のところ、従業員を休業させることが、2⑶で触れた「不可抗力」といえるかによります。

 この点、国等からの要請を受けてやむなく休業させるのですから、「① その原因が事業の外部より発生した事故であること」や「② 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること」については当然に認められるのではないかとお考えになる方もいらっしゃるかと思います。

 もっとも、休業要請といっても、㋐緊急事態宣言前からできる、感染症対策の実施に関し「必要な協力の要請」(新型インフルエンザ等対策特別措置法24条9項)にとどまるものと、㋑緊急事態宣言を受けて可能となる、施設の使用の停止等の「要請」(同法45条2項)や、㋒「要請」に応じない場合の「指示」(同法45条3項)の段階とでは、都道府県知事が企業に対して休業を求める強さのレベルが異なります。

 令和2年4月の緊急事態宣言後に実際に都道府県知事から出されたもののほとんどは㋐であり、この場合に企業が事業運営をどのように行うのか、従業員を休業させるのか否かは、企業側の経営判断に委ねられる事項といえます。また、㋑㋒については、公表の対象にはなりますが(同法45条4項)、法律上事業の休止を強制されるわけではなく、従わなかった場合の罰則もありません。

 したがって、緊急事態宣言を受けて休業要請が出されたといっても、それが従業員を休業させざるを得ない原因になるといえるのか、一律に判断することはできないと考えられます。

 さらに、従業員を休業させることが避けられないといえるためには、従業員との間で十分な協議を尽くしたか、他の職場への配置転換や、他の営業形態への移行(たとえば飲食店であればテイクアウト業務への変更など)、在宅勤務・テレワークの導入など、当該企業の個別具体的な事情に照らして、従業員の休業を回避するための努力を十分に尽くしているといえる必要があります。

 このように、緊急事態宣言を受けて休業要請が出されている場合であっても、休業させた従業員に対し、一律に休業手当の支払義務がなくなるわけではありません。

⑵ 緊急事態宣言の対象地域だが、国等から休業要請を出されていない業種の場合

 この場合、企業が事業を休業・縮小させるか否かは企業の自主的な判断といえますので、従業員を休業させることが不可抗力によるものとはいえないと考えられます。したがって、少なくとも、労基法26条による休業手当(給与の60%以上)は支払う必要があると考えられます。

 それでは、賃金全額を支払う必要はあるのでしょうか。

 これについても、企業が従業員に勤務させることが十分可能であるのに、経営側の判断で従業員に休業命令を出した場合には、企業側に故意・過失等があると認められ、給与全額の支払義務があると判断されることがあり得ます。

 この点は、事業を休業・縮小する必要性の高さ、事業の休業・縮小を回避する努力(代替手段の検討)の有無、休業させる従業員の選択の合理性、従業員に対する説明の内容などが考慮されることになると考えられます。

⑶ 緊急事態宣言の対象地域ではない場合

 この場合も、⑵と同様であり、企業が従業員に勤務させることが十分可能であるのに、経営側の判断で休業命令を出した場合には、給与全額の支払義務があると判断される可能性があります。

 少なくとも、労基法26条による休業手当(給与の60%以上)は支払う必要があるでしょう。

⑷ 経営者として求められる対応

 以上のように、事業の休業・縮小に伴い、従業員を休業させた場合に、従業員に対する給与の支払いをどのようにするかについては、専門的で難しい判断を迫られることになります。経営者としては、従業員の意向や、不可抗力による休業であると評価されないリスクを考慮に入れながら、自社の置かれた状況や社会情勢に応じて、その都度判断をしていく必要があります。

 判断に迷われる場合には、労働問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

 なお、従業員の休業に際しては、雇用調整助成金を利用することも考慮に入れるべきです。雇用調整助成金とは、賃金全額経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用維持を図るための休業に要した費用を助成するものです。助成率の引き上げや、給要件も緩和されておりますので、是非ご利用ください。