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【新型コロナウイルス対策】従業員の移動に伴う感染症リスクの軽減について

1 はじめに

 新型コロナウイルス等の感染症拡大防止の観点から、従業員の移動に伴う感染リスクを軽減したいと考えている(実施している)経営者の皆様は多いと思います。

 弊所でも、令和2年5月現在、就業規則の整備、テレワーク実施規則の策定、運用マニュアルなどを急場で作成し、遠隔作業に伴う情報セキュリティマネジメントの実施など、安全かつ効率的な業務運営について、継続して検討を続けています。

 今回発生した新型コロナウイルスに対する対応については、BCPを定める等の事前準備が十分であった事業者の方が少数ではないかと思います。そのため、種々の整備を行う時間も無かったことから、政府の要請に伴い、種々の検討が十分に間に合わないままテレワーク等を実施せざるを得なかった企業の皆様もそれなりの割合になるのではないでしょうか。

 そこで、今後継続的にテレワーク等の試みを実施していくことを前提に、いくつか従業員の移動と言う面から見たときに、弁護士として考えるところを記載したいと思います。

 

2 考えられる移動の場面

 従業員が労働関係に基づき移動する場面は、①通勤時の移動と、②業務時間中の移動が考えられます。

 まず、①に対する対応方法としては、以下が考えられます。

  ア 公共交通機関の利用をするとしても、混雑時の通勤を避ける。

  イ 公共交通機関の利用をしない移動を行う。

  ウ そもそも通勤をしないで仕事を回す方法を考える。

 これらを組み合わせてなるべく感染のリスクを防止する取り組みを行うことになると思います。

 このうち、アについては、いわゆる時差通勤であり、労務上は、会社がそれを命じたことで、所定労働時間の短縮が生じたときに、その短縮した時間に対する賃金の補償が問題になります。この点は、基本的に会社命令による就労拒否と同様の問題になりますので、感染症拡大に伴う休業と従業員の給与に関する項目をご参照ください。

 次に、イについては、例えば徒歩による通勤、自転車や自動車の利用による通勤への変更を要請することが考えられます。

 前提として、通勤時間は、会社が従業員を拘束できる労働時間ではありませんので、特定の通勤方法を命じることは、原則としてできないと考えられます。

 公共交通機関を利用しない通勤に対して手当を支給することにより事実上通勤方法の変更を促すこと等は考えられますが、長期的な視点から考えた場合の影響を考える必要があり、安易な導入は避けるべきでしょう。逆に、この間、通勤手段を変更した従業員に対して、通勤手当を従前と同額支給するべきか、は問題になります。この点については、そもそも通勤手当の支給が、実費支給なのか定額支給なのかを確認の上で原則を決定することになります。定額支給であれば、原則としてそのまま定額を払うことになります。

 ウについては、いわゆるテレワークが考えられます。この場合、テレワーク規定の整備のほか、テレワーク従業員の労働時間の管理をどのように行うのか、また、賃金に業務上の評価が絡む場合には、従前と同様の評価がテレワークで可能なのかを検討する必要も出てきます。テレワークについては、項をあらためて検討したいと思います。

 次に、②の業務に付随する移動を減らす方法が考えられます。この点は、各種アプリケーションを利用してのテレビ会議システムの導入が考えられます。会社としては、どのようなシステムの利用を許すのか、また、利用する機器の制限など、情報セキュリティマネジメントの観点から規定の整備を行うべきでしょう。

 

3 テレワークについて

(1)就業規則の観点から

 まず前提として、テレワークを行う従業員にも労働基準法の適用があります。

 労働基準法に基づき、事業主は労働契約締結に際し、就業の場所を明示する必要があります(労働基準法施行規則5条2項)。テレワーク(在宅勤務)の場合には、就業場所として従業員の自宅を明示する必要があります。

 その他、労働時間の管理が必要となりますし、細かいところでは、通信費等の負担等も定めるべき事項になりますので、現在利用中の就業規則にテレワークの規定がない場合には、あらためてテレワーク就業規則を定めるべきです。定め方としては、新たに別冊でテレワーク就業規定を策定しても良いですし、就業規則本体に新たな条項を追加してもよいでしょう。お勧めは別冊でテレワーク就業規定を策定する方法です。

 なお、テレワーク就業規定については、厚生労働省のホームページからモデル就業規則を確認することができますので、こちらを参照しながら自社に合わせてカスタマイズする方法がお勧めです。

 どこまでカスタマイズ可能かについては、個別の企業体によって異なってくる部分が出てきますので、必要に応じてご相談ください。

(2)労働時間の管理

 労働時間の管理には、①始業・終業時刻の管理と ②業務時間中の在席確認の2つの観点があります。

 まず、①については、従業員の始業・終業時刻を管理するため、始業・終業時刻の報告や記録の方法をあらかじめ決めておきます。一般的には、メールやチャットツール、電話等で報告することが簡易です。

 参考までに弊所では、チャットツールと、勤怠管理ツールにて始業、終業の報告を行っています。具体的なツールについては、興味がございましたら、弊所までお問合せください。

 なお、所定労働時間中に業務を中断することを認める場合について、その運用ルールをあらかじめ決めることが必要です。

 次に、②の在籍・離席確認ですが、やはりメールやチャットツールが一般的ですが、目標管理制度が適正に運用されている場合には、個別のテレワーク実施時の推進状況の管理が必要でないという場合や、必ずしも在席管理が適合しない職種もありますのでケースバイケースです。

 ところで、営業職などの従業員には、みなし労働時間という形で、労働時間を必ずしも管理していない(そして基本的に残業代金を払っていない)ケースがあると思います。テレワークも同様に管理できないのか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、テレワークの場合には、労働状況を把握することは可能かと思いますので、原則としてできないと理解してください。

(3)その他

 テレワークの実施については、ICTの環境の整備、選択したICTに応じたセキュリティの実装が必要になります。仮に自宅の私的に所有する機器を利用したことにより、情報漏洩等が発生し場合には、それを会社が許容している状況下において発生した場合、会社が対外的に責任を負担することは当然として、そのようなPCの利用を行うにあたって、会社が十分なセキュリティに関する対策を講じていなかったことが原因になりますので、当該従業員に対する処分もできない、と言う事態も想定されます(もちろん、当該従業員に重大な過失があったようなケースは別です。)。

 また、テレワーク勤務を命じることが可能か、という問題もありますが、例えば全従業員に、同一の趣旨目的からテレワーク勤務を命じているところ、これに従わない従業員に対しては、業務上の命令によりテレワークを行うように命じることは可能ですし、ケースによっては懲戒等の処分もあり得ると考えます。もちろん、前提となる就業規則等が整備され、テレワークが可能な状況で命じることが前提になりますので、その意味でもテレワーク就業規則等環境整備は必要になると思います。

 「その他」テレワークについては、初めて実施する企業の皆様の方が多いと思います。そのため、基礎的な話になりますが、PDCAサイクルに従って適宜修正しながらよりよいものにブラッシュアップしていく必要があると思います。法的な観点からの疑問点含め、必要に応じて弁護士にご相談ください。