【法改正】高年齢者雇用安定法は何が変わる?
2020年3月に改正法が成立、2021年4月に施行された高年齢者雇用安定法。
今回の改正で自社の体制は見直しが必要となるのかどうか、この機会にぜひ本記事をお読みいただき、ご参考にしてください。
Contents
1 そもそも高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法の目的は、その名のとおり高年齢者等の職業の安定を主軸に置いています。
定年の引き上げ、継続雇用制度の導入や、再就職の促進等を含め、高年齢者等に包括的な就業の機会を確保できるように措置を講じましょうという法律です。
+豆知識
*高年齢者とは?
60歳、あるいは65歳を想像される方もいらっしゃるかと思いますが、「高年齢者」とは「55歳以上の者」と定義されています。
「高年齢者『等』」になると、「45歳以上の求職者」も含まれるなど対象範囲は思いのほか広いのです。
2 大きな改正ポイント
従来までは、60歳から65歳までの雇用確保措置を義務付けられていましたが、今回の改正でさらに65歳~70歳までの就業機会を確保するための努力義務が新設されました。
従来(義務)
☑ 60歳未満の定年禁止
☑ 65歳までの雇用確保措置(義務)
- 65歳までの定年引上げ
- 継続雇用制度の導入
- 定年の定めの廃止
改正後 上記に加えて以下を新設
☑ 65歳から70歳までの就業確保措置(努力義務)
- (1)70歳までの定年引上げ
- (2)70歳まで継続雇用制度の導入(*)
- (3)定年制の廃止
- (4)70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度を導入
- (5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
ⅰ 事業主が自ら実施する社会貢献事業
ⅱ 事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
⑴~⑶は従来の65歳未満の雇用確保措置を概ね踏襲したものですが、
⑷⑸は本改正で新たに新設されたものであり、「創業支援等措置」と言います。
*継続雇用制度の範囲拡大
65歳未満は、雇用主は自社か特殊関係事業主(子法人、親法人等)のみに限られましたが、65歳以上は、特殊関係事業主以外の他社も認められるようになりました。
+1情報
*実際に企業が取り入れている65歳までの雇用確保措置は?
令和元年の厚生労働省の発表によると継続雇用制度が8割弱を占めています。
次いで定年の引き上げが19.4%、定年廃止は2.7%と続きます。
3 「創業支援等措置」とは?
65歳未満が「雇用」確保措置という名目に対し、65歳以上は「就業」確保措置という名前である所以は、新たに創設された創業支援等措置によるものです。
つまり、⑷⑸は、「雇用」ではない就業形態を想定しています。
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
・70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
ⅰ 事業主が自ら実施する社会貢献事業
ⅱ 事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
*社会貢献事業とは?
不特定かつ多くの人の利益を目的とした事業のことをいいます。どんな事業が社会貢献事業に該当するかは個別的な判断になります。但し、特定の宗教の布教や特定の政党を支持する事業等は該当しないとされています。
創業支援等措置を実施する場合、厚生労働省で定められた12の項目を定めた計画書を作成し、過半数労働組合等の同意を得ることが必要になります。
労働者の就業が不安定になる可能性が懸念されるため、導入にはより厳格な基準が設けられているのです。
4 企業側はどんな対応が必要なのか
☑ ⑴~⑸のいずれの措置を導入するか検討
措置を複数組み合わせることも可能です。
例)67歳まで定年引上げ +67歳から70歳まで継続雇用制度
☑ 対象者の限定
高年齢者就業確保措置は努力義務であるため、対象者を限定することが可能です。
但し、基準の内容は事業主の恣意的な判断にならないように明瞭に定める必要があります。また、法令に反するような差別的な基準も不適切とされているため避けるべきです。
例)○ 過去5年の人事評価がB以上であるもの
○ 過去5年の健康診断で医師に業務に支障がないと診断されたもの
× 男性(女性)に限る
× 上司の推薦があるものに限る
☑ 過半数労働組合等との協議、同意
創業支援等措置⑷⑸を講ずる場合は、過半数労働組合等の同意が必要です。
そのほかの措置でも労使間で協議を行うことが望ましいといえます。
☑ 就業規則の変更
常時10人以上の労働者を使用されている事業主は、就業規則の作成義務、届け出義務があります。
☑ 運用開始
☑ 定期報告(年1回) 高年齢者雇用状況報告書を提出
☑ 不定期報告
・1ヶ月に5人以上、解雇等により離職する場合
→多数離職届(義務)
・解雇等により離職する高年齢者等が希望する場合
→求職活動支援書の交付(義務)
→再就職援助措置(努力義務)
5 罰則はある?
70歳までの就業機会確保措置は、努力義務のため設けなくても罰則はありません。
ただし、努力義務違反でも損害賠償責任等を負うリスクがゼロではありませんし、厚生労働省による行政指導の対象とはなり得ます。逆に、積極的な取り組みを実施していくことは、今後の採用や離職防止の点で大きなメリットをもたらす可能性があります。
なお、現在は義務化されている65歳までの雇用確保措置も始めは努力義務だったところ、法改正により義務化された経緯があります。
今回の改正がいずれ義務化されるかどうかはもちろん分かりませんが、まだ措置を講じていない企業様は速やかに検討、導入を進めていくことをおすすめします。
6 対応に困ったら
5年間の就業を確保するために、事業主様には大きな負荷がかかることは想像に難くありません。労働者の給与財源の確保や労務形態の見直しに加え、新たに継続雇用制度や業務委託契約を導入される場合は、労働者との契約書も新たに準備する必要が生じます。
弁護士は、法律、契約書実務に精通している専門家です。煩雑なことは専門家にお任せいただくことで、事業主様は経営に専念していただけます。
とりわけ法務部門を持たない企業様において、自社での対応が難しい場合、新たに労働者を雇うより少ない経費で顧問契約を結ぶ方法もございます。
当事務所では、顧問先企業様等から、人事・労務管理に関するご相談を多数お受けしており、社内規程の作成・見直しや労使紛争対応等の経験も豊富です。対応にお困りの際、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。
※本記事は高年齢者雇用安定法の改正点の概要をご紹介しております。