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【法改正】業務委託とフリーランス新法

2023.12.11

 

1 フリーランス新法とは

 フリーランスとの取引の適正化のための、フリーランス新法(正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」と言います。)が2023年4月28日に成立しました。この文章を作成している時点では、施行日は未定ですが、2024年の秋頃には施行される予定です。

 

2 雇用契約と業務委託契約 

 当事務所がお付き合いさせていただいている顧問先企業様は、中小企業者や、小規模企業者が中心です。中小企業者の皆様においては、(特に継続利用する業務委託の場合は)雇用契約を締結することで規制される労働基準法や労働契約法などの規制を回避したいという背景や、雇用契約を締結することで控除される社会保険等を嫌がり、雇用ではなく業務委託形態での就業を希望するニーズを背景に、本来は雇用契約とすべき事案ではないかと思われるケースについても、業務委託という形態がとられることがあると感じています。

 もとより、実態が雇用契約であるものを、規制回避のために業務委託契約の形式としたところで、その従事者が、労働者であるとの実態がある場合、法的評価としては労働者であるとして労働基準法の規制を受け、また、社会保険の加入等が必要と判断されることになります。

 このあたりの各種規制が妥当するのかどうかの判断基準については、それぞれの法律や規制が適用される領域ごとに、それぞれの領域における定義や基準を当てはめて(例えば労働基準法の適用がある労働者かどうか、であれば、使用従属性の観点から導かれるいくつかの条件の検討の中で、労働者性が判断されます。)判断されることになります。このあたりはそれだけで大きなテーマになりますが、今回のテーマから、外れてしまいますので、詳細な検討は別の機会に譲りたいと思います。

 純粋な意味でのフリーランスはもとより、業務委託形式で実質的な労働力を確保している事業者についても、今回のフリーランス新法による就業者保護規制は無視できないものなので、留意が必要です(もちろん、実態が労働基準法上の労働者と判断される場合、このフリーランス新法による規制に従っているからと言って、労働基準法等の適用を免れるものではありませんので誤解のないようにお願いします。)。

 

3 フリーランス新法の問題意識

 ところで、フリーランス新法が本来的に予定している業務委託に関連する従前の規制としては、実態が労働者であれば労働基準法、建設業法や下請業法の適用がある場合にはこれらの法律による規制が、さらに大きくは独禁法(なお、独禁法との関係では、「フリーランスガイドライン」も作成されています。)や、最終的には民法の一般法の適用が考えられます。しかし、それぞれ適用に要件があるため、どうしても規制の隙間が生じてしまい、その隙間にあるフリーランスなどの業務受託者を、どのように保護するのか、といった問題意識が存在していました。

 

4 フリーランス新法の具体的な内容

 こういった背景もあって成立したフリーランス新法では、主に①取引の適正化のための書面の作成、②報酬の支払い時期、③委託事業者の禁止行為や就業環境の整備義務、④その他の就業環境の整備等が定められており、違反した場合には、公正取引委員会等による各種措置がなされる可能性があり、間接的な罰金も規定されています。

① 書面の作成については、原則として業務を委託した場合直ちに、フリーランスの給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項(公正取引委員会規則で定めるもの)を書面または電磁的方法によりフリーランスに明示しなければなりません(法3条1項本文)。

* 実際に書面を利用している事業者様も多いと思いますが、記載事項に漏れがないか再度確認が必要です。

 

② フリーランス(特定受託事業者)に業務を委託する特定業務委託事業者(業務委託事業者のうち、従業員を利用しない個人事業主や法人などの個人で事業を行っている者は除いた委託事業者です。)については、報酬は、給付内容を検査するかどうかを問わず、給付受領から60日以内に報酬支払期日を設定し、報酬を払わなければなりません(法4条1,2及び5項)。再委託の場合には、元委託者の支払期日から30日以内です(同条3項、4項及び5項)。

 

③ フリーランス(特定受託事業者)に業務を委託する特定業務委託事業者が、政令で定める期間以上の業務を委託した場合には、フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒絶することなどをしてはならず(法5条1項1号~5号)、フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、またはやり直させることで、フリーランスの利益を不当に害してはならない(同条同項6号~7号)とされています。

 なお、違反がある場合、公正取引委員会または中小企業庁長官にその旨を申し出ることができ、この場合、公正取引委員会等は、必要な調査等を行うものとされています(同法6条1項)。

* フリーランスガイドラインで規定されていた類型の多くを明確化したものです。

 

④ 特定業務委託事業者については、フリーランスの就業環境整備のため、募集情報の的確表示、妊娠出産等に関する配慮、ハラスメント行為に関する必要な体制の整備等、継続的業務委託に係る契約解除等の予告(30日前)が必要です(法12条~16条)。

 違反の場合の申告と調査については前③と同様です(法17条)

 

5 まとめ

 業務委託形式で、これまで、あまり規制の側面を考えずにフリーランスを利用していた事業者にとっても、今回のフリーランス新法は、それなりにインパクトがある法律になっているので、施行時期までに、締結書面や規制の内容、現在の使い方に問題がないのかを改めてチェックをする必要があります。