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解雇するために必要な条件

弁護士に相談

 解雇は使用者の判断だけで有効とされるものではありません。解雇が有効とされるためには、解雇権を濫用したと判断されないような客観的・合理的理由が必要です。もし、解雇が客観的・合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、解雇権を濫用したものと判断され、解雇が無効となります(労働基準法第18条2項)。すなわち、従業員を解雇する場合には、その従業員が解雇されるに足る客観的・合理的理由があると認められるかどうかを十分に調査する必要があります。

解雇するために必要な理由とは

 従業員を解雇する場合には、解雇するに足る客観的・合理的理由が必要です。客観的・合理的な理由となる解雇事由としては、以下のようなものが考えられます。

①社員の入院

 多くの企業では、労働者の死傷病による欠勤が一定期間以上にわたる場合を休職とし、休職期間満了時点でも復職が困難な場合、解雇あるいは休職期間の満了をもって退職と扱う旨の就業規則を定めています。つまり、数週間の入院で病気が治療可能な場合には解雇は原則認められず、職場復帰時期が予測できない程の長期間を要するような場合には、労務提供が不能であるとして解雇しうると考えられます。このような就業規則に該当するか否かという形で、解雇(退職)の有効性が争われる場合が多いようです。なお、病気の社員を解雇する際には、業務上負傷または疾病にかかり、療養のため休業する期間、および、その後30日間は解雇できないものとされています(労働基準法第19条1項)。

②勤務態度や勤務状況の不良

 ただ勤務態度や勤務状況が悪いだけでは解雇は認められず、解雇がやむを得ないと考えられる客観的・合理的な理由と、社会通念上相当と認められる事が必要です(労働契約法16条)。具体的には、以下のような観点から解雇の有効性が判断されます。

  • 勤怠不良等の回数・程度・期間・やむを得ない理由の有無
  • 職務に及ぼした影響
  • 使用者からの注意・指導と当該従業員の改善の見込み
  • 当該従業員の過去の非行歴や勤務成績
  • 過去の先例の有無

③労働能力の欠如

 基本的には、雇用関係を維持することができない重大な能力不足でなければ、解雇することは難しいでしょう。ただし、当該社員が一定の労働能力を有していると想定して採用したものの、実際には労働能力が著しく欠如していたような場合には、その程度によっては解雇しうると考えられます。労働能力の欠如を理由として解雇するためには、直ちに解雇するのではなく、当該社員に対して不十分な点を説明し、労働能力を向上させるための援助をすることが先です。その上で、なお是正されない場合に解雇を行うという配慮が必要であると考えられます。これを怠った場合、解雇権の濫用として解雇が無効とされ、解雇した後の賃金支払いについての責任を問われかねませんので、注意が必要です。

④経歴詐称

 重大な経歴詐称があった場合には解雇しうると考えられますが、全ての場合に解雇できるわけではありません。具体的には、その経歴詐称行為が重大な信義則違反に該当するかどうかを以下のような観点から総合的に判断し、信義則違反にあたると判断された場合には、解雇が許されるものと考えられます。

  • 就業規則に経歴詐称を解雇事由とする旨の有無
  • 経歴を詐称した態様
  • 意識的に詐称されたものであるか
  • 詐称された経歴の重要性の程度
  • 詐称部分と企業・詐称者が従事している業務内容との関連性
  • 使用者の提示していた求人条件に触れるものであるか
  • 使用者が労働契約締結前に真実の経歴を知っていれば採用していなかったと考えられるか

⑤既婚社員による社内交際

 私生活上の行為を理由として解雇しようとしても、実際には認められない場合が多いようです。ただし、こうした行為が原因で、会社の業務や信用に著しい影響を及ぼした場合には、解雇が認められることもあります。

解雇までの手続きも慎重に

 解雇事由が正当なものだったとしても、解雇に至るまでの方法が慎重さを欠いている場合には、解雇権の濫用と判断されることもありますので注意が必要です。解雇権の濫用と判断されないためには、解雇される者の選定が合理的であるかどうか(被解雇者選定の合理性)のほかに、解雇を回避するための努力を尽くしたがどうか(解雇回避努力)、事前に説明・協力義務を尽くしたかどうか(解雇手続の妥当性)が争点になってきます。つまり、できるだけ解雇以外の方法によって解決しようとしたという経緯が必要になります。例えば、無断欠勤の多い社員を解雇したい場合には、最初から懲戒解雇を行うのではなく、まずは戒告・訓戒などの解雇以外の懲戒処分、それでも改まらない場合には諭旨解雇を試みる必要があります。それも困難な場合に、最終手段として懲戒解雇を考えるというステップが重要です。
 また、普通解雇ではなく、懲戒処分として解雇を行う場合には、弁明の機会を与えるなどの要件も必要となります。その意味で、原則として普通解雇とすべきであり、懲戒解雇は慎重に行うべきでしょう。

解雇のご相談は弁護士へ

 解雇するに足る正当な理由があるか否かについては、具体的な事情によって結論が異なります。事実関係をきちんと調査せずに不当解雇を行った場合、後ほど会社の賃金支払い義務や、態様によっては慰謝料等の損害賠償責任が問われる可能性がありますので、安易な解雇判断は禁物です。解雇する時点では、被解雇者が何の文句も言わず穏便に解雇できた場合でも、その後、解雇の無効を訴えて争ってくる可能性も十分に考えられます。したがって、解雇できるかどうかが不安なとき、あるいは、解雇する上での手続きが不安なときは、弁護士に事実関係を詳しく説明して判断を仰ぐのが賢明でしょう。