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【法改正】自動車運転業務の時間外労働規制2024年問題が与えるインパクト

1 いわゆる「物流2024年問題」について

 自動車運転業務(タクシーやトラック、バス等)の時間外労働規制については、2024年(令和6年)3月31日まで、いわゆる36協定に関する限度時間等、一部規定の適用が猶予されていましたが(労基法140条2項)、同日をもって猶予期間が終了することになります。
 
 この結果、自動車運転業務についても、労基法36条が、「当分の間」は修正を受けつつも(労基法140条1項)、基本的には時間外労働に関する限度時間が適用されることになります。これにあわせて自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(いわゆる改善基準告示)も改正されることになりました。
 
 改善基準告示の詳細については、通達(厚生労働省労働基準局長 基発1 2 2 3第3号令和4年1 2月2 3日)で確認できます。大雑把に言えば、ドライバーの拘束時間が短くなり、休息期間は長くなる、ということです。
 
 なお、上限規制が適用猶予されていた業種としては、自動車運転業務の他、医業に従事する医師や、工作物建設関連事業などがありますが、特に自動車運転業務(物流業務)については、長距離、長時間運転を前提とした配車、長時間の手待ち時間、これによる長時間労働を前提に給与を受けていたドライバー、さらにはドライバーの人手不足、根本的には荷主との力関係から、手待ち時間の解消に取り組むことが困難など、様々な問題があります。
 
 今回の猶予期間の終了に対して、自動車運転業界は、どのようにこれに対応して経営を維持して従業員への賃金を確保するのか、取引先や消費者への運送サービスの供給を安定的に継続していくのかということを、あらためて検討しなければならない状況にあると思います。
 
 直ちに答えを出すことが難しい問題ではありますが、まずはこの問題の前提となる、一般的な労働時間の上限規制についても以下で触れつつ、対応の方向性についても検討してみたいと思います。

 

 

2 時間外労働・休日労働の基本

 労働基準法の定める法定労働時間は、1週40時間、1日8時間(常時10人未満の労働者を使用する、一定範囲の特例事業所については、1週44時間とされているなど例外はあります。)が限度であり、かつ、法定休日として1週間につき1日、それができない時は4週間で4日の休日を与えなければなりません。
 
 この時間を超えて労働させる場合や法定休日に労働させる場合に必要となるのが、時間外労働協定・休日協定(いわゆる36協定)です。使用者は、時間外労働、休日労働に勤務すべきことを命じることができる旨の就業規則等の根拠を前提に、これらの協定を締結して届出することにより、時間外労働、休日労働を命じることが可能になります。
 
 36協定は、事業所に労働者の過半数を占める労働組合があればその労働組合、それがなければ労働者の過半数代表者との間で協定を締結し、所轄の労働基準監督署長に協定書を届け出ることが必要です。

 

 

3 2019年4月施行の法改正による時間外労働の上限規制

 従前の時間外労働の規制は、時間外労働協定について「限度基準」が定められており、時間外労働協定は、その基準に適合したものにしなければならないものとされていました。具体的な基準としては、例えば1年間で360時間等と規定されていました。しかし、そもそもこの「限度基準」は労基法の上限規制として直接的に定められたものではないため、あくまで労働基準監督署長が、その限度基準を上回る時間外労働協定について、必要な助言及び指導を行うことができるとされているにとどまりました。
 
 これに対して、2019年4月施行の法改正により上限規制(原則は1か月45時間、1年で360時間等とされていますが、臨時的に限度時間を超える時間外労働として、1年720時間以内等を内容とする特別条項を定めることは可能です。)を設け、それを超える協定の効力は無効となりました(中手企業への適用は1年後の2020年4月とされています。)。
 
 この改正により、労基法に定める上限規制に違反する36協定は法律違反で無効となります。無効な協定に基づき時間外労働をさせることや、協定内容は有効であっても、労基法の定める実労働時間数の上限規制(時間外労働と休日労働の合計が1カ月100時間未満であること、2~6カ月平均で80時間以下であることなどの実労働時間の規制)に違反すると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処させられうることになりました。なお、この罰金については、違反して働かせた労働者の人数分の罰金が理論上課せられるので、注意が必要です。

 

 

4 自動車運転業務の時間外労働規制について

 このように、一般的には2019年4月施行の労基法改正法施行を契機に、36協定の内容等の規制が強化されましたが、これらの改正中の、上限規制に関する部分については、自動車運転業務については、これまで猶予されていた、ということになります。
 
 2024年4月1日以降は、この猶予期間が終わることで、上限規制の適用が開始されます。
 
 もっとも、先に記述のとおり、自動車運転業務に、上限規制の適用が開始されるものの、「当分の間」は、次のように36協定を定めることができます。すなわち、①36協定で特別条項を設ける場合、時間外労働の限度時間(労基法36条3項、4項)は適用されますが、1か月及び1年についての延長時間を定め、1年については時間外労働が960時間を超えない範囲にすることができ、特別条項についても、1か月の時間外労働と休日労働の合計を100時間未満とすること、等の一部規制が不要となります。
 
 この猶予期間の終了に併せて、自動車運転業務の改善基準告示も改正され、2024年4月1日から施行される予定です。この告示の改正は、例えば日勤の1日の休息期間が、これまで継続8時間以上とされてましたが、改正後は、継続11時間以上の休息期間を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとすることなどとされており、拘束時間や休息時間に関する制限がより厳しくなる予定です。

 

 

5 自動車運転業界が取り組むべきこと

 まずは、法や告示にあわせた体制を前提とした配車・配送のシミュレーションは必須です。法や告示の制限は前提とせざるを得ませんので、それを前提とした配車を可能とするために、あらためて作業方法を見直し、労働時間短縮のための改善を全社的に行い、さらには荷主にも実情を説明の上、手待ち時間等の無駄な時間を減少するための施策を取引先も含めて検討する必要があります。もちろん、力関係もあると思いますが、出来ることは諦めずに全て行うことが必要になると思います。具体的な労働時間削減のための進め方としては、厚生労働省のHPで、「荷主と運送事業者のためのトラック運転者の労働時間削減に向けた改善ガイドブック」などが掲載されていますので、適宜参照するとよいと思います。
 
 また、労務形態、給与形態も含めてより効率的な働き方を後押しするためにも、これらの制度の見直しをすることも考えられます。場合によっては、全従業員に支給する総賃金は基本的にはそのままに、出来高部分を増やして無駄な残業が無意味になるような賃金体系そのものの抜本的改革も検討の対象になると思います。
 
もちろん、就業規則の不利益変更については、慎重に進める必要があるため、賃金制度の改革は、従業員への十分な説明は当然として、合理的な制度変更と説明できるような設計を弁護士や社労士などの専門士業を巻き込んでよくよく検討すべきです。この際、利用できる各種助成金の申請も併せて検討します。
 
 そして、手待ち時間の解消だけではなく、そもそも論として、ここ最近の燃料費高騰等による負担を取引関係者全体で公平に負担できるように、適正な運賃が支払われるように、あらためて荷主と協議することも検討対象になると思います。運送業者が疲弊し倒れてしまえば、安定的な運送が損なわれ、荷主にとっても大ダメージです。交渉の材料としては、貨物自動車運送事業法により設けられた「標準的な運賃の告示制度」の利用も検討しましょう。具体的な数値を、資料をもとに説明できるように事前準備も重要です。
 
 最終的には、少ないドライバーをうまく回さないといけない中小企業には人的限界もあるため、配送ルートを数社で分担するなど、結合の程度はともかく運送業界の水平結合も検討が必要ではないかと感じています。
 
 いずれにしても、考えるだけではなく、出来ることを少しずつ始めないと、直前になって対応できず、最終的には淘汰されるリスクすらあると思います。弁護士、社労士その他専門家の助けも得ながら、業務改善の機会と前向きにとらえて、積極的にこれらの施策に取り組むことが必要だと思います。