【法改正】改正プロバイダ責任制限法について解説!
本サイトでは、改正プロバイダ責任制限法について解説します。
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第1 プロバイダ制限責任法とは?
プロバイダ責任制限法は、正式名称を「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」といいます。実務上では「プロ責法」と略されることが多いです。
プロバイダ責任制限法は、インターネット上で流通した情報により権利侵害が発生した場合に、①プロバイダの責任の範囲を明確にするとともに、②匿名の投稿者の特定手続(法律用語では「発信者情報開示請求」といいます。)について規定されています。
プロバイダ責任制限法は、平成13年に制定されました。
しかし、インターネットが急速に普及し、SNSなどの新たなサービスが生まれたことにより、法律の制定時には想定していなかった手続上の課題が発生するようになりました。
そこで、令和3年4月にプロバイダ責任制限法が改正されました。改正プロバイダ責任法では、主に発信者情報開示請求(上記の②)の手続上の課題が改正され、インターネット上での権利侵害の被害を受けた被害者の救済に資する制度設計がなされています。
なお、プロバイダ責任制限法は、あくまでも投稿者を特定する「手続」について定めたものです。どのような場合に権利侵害が認められるか(どのような投稿が名誉棄損に該当するかなど)については特に変更はありません。
第2 改正の概要
⑴ 施行日
施行日は、令和4年10月1日です。
⑵ 主な改正の内容
改正プロバイダ責任制限法は、もともと4条しかなかった法律を18条まで拡大する内容であり、大きな改正といえますが、その中でもポイントは以下の2点です。
① ログイン型(Twitter、Facebook、Googleなど)に関する開示手続の整備
→Twitter、Facebook、Googleなどに対して、開示請求が行いやすくなりました。
② 発信者情報開示のための新しい裁判手続の創設
→従来の手続と比較して、簡易迅速な裁判手続が新しく制度化されました。
第3 ログイン型に関する開示手続の整備
⑴ 旧法の問題点
いわゆるログイン型とは、ユーザーがアカウントを登録し、そのアカウントを用いてログインした後に投稿する形式のものをいいます。代表例として、Twitter、Facebook、Googleなどが挙げられます。
このようなログイン型の投稿は、プロバイダ責任制限法が制定された時点では普及していなかったサービスであり、改正前の法律では投稿者の特定に問題がありました。
ログイン型の問題点を理解するためには、前提として、これまで想定されていた発信者情報開示手続を理解する必要があります。
発信者情報開示請求にあたっては、まず、コンテンツプロバイダに対して、当該投稿に関するIPアドレス等の開示を請求します。コンテンツプロバイダとは、簡単にいうと、掲示板(5ちゃんねるなど)やSNS(twitterなど)等の、当該投稿がなされるサイトを運営する事業者です。
その後、開示を受けたIPアドレス等に基づき、アクセスプロバイダに対して投稿者の住所、氏名の開示請求を行います。
旧法が制定された当時にコンテンツプロバイダとして想定されていたのは、主に電子掲示板(5ちゃんねるなど)です。電子掲示板やブログでは個別の投稿に関してIPアドレス等が記録されています。そのため、被害者は、電子掲示板の管理者に対し、個別の投稿に関するIPアドレス等の開示を求めることができました。
これに対し、上述したTwitterなどのログイン型の投稿では、電子掲示板とは異なり、個別の投稿に関するIPアドレスを保有していない場合があります。 この場合にどのように解決していたかというと、投稿者がログイン型サービスにログインしたときのIPアドレス等の情報の開示を受け、ログインした人=投稿した人と関連付けることにより、投稿者の特定を図っていました。
もっとも、このようなログイン型のサービスは、立法当時に想定されていなかった状況であるため、改正前の法律において、ログイン時のIPアドレス等の情報の開示を受けられるのか、ログイン時のIPアドレス等の開示を受けられたとして、そのIPアドレス等に基づき住所氏名の開示を受けれられるのか、という点について、裁判所によっても判断が分かれる状況でした。
⑵ 改正の内容
改正法では、このようなログイン型サービスに関する課題が立法的に解決されました。 発信者情報開示請求の開示範囲が拡大され、権利侵害を発生させる通信そのものではない、ログイン時の通信についても開示対象とできるようになりました。
より詳しく解説すると、改正法では、従来発信者情報開示の対象が「権利侵害通信」に限定されていた点を改め、ログイン時の通信に関しても「侵害関連通信」として開示対象としました。
「侵害関連通信」の詳細については、総務省令に定めれられており、以下の4つの類型に該当する通信のうち、侵害情報の送信と「相当の関連性」を有するものとされています。
- アカウント作成時の通信
- ログイン時の通信
- ログアウト時の通信
- アカウント削除時の通信
このうち「相当の関連性」がどのような場合に認められるのかについては、今後の実務上の争点になると思われます。
このように、ログイン型サービスについては、改正法により一定の立法による解決が図られています。
第4 新しい裁判手続
⑴ 旧法の問題点
インターネット上での違法な誹謗中傷などの権利侵害が発生し、投稿者の特定を行うために発信者情報開示請求を行う場合、プロバイダから任意で発信者情報の開示を受けられることは多くありません。 プロバイダから任意に開示を受けられない場合、裁判手続が必要となります。
ところが、旧法では、
①コンテンツプロバイダに対して発信者情報開示仮処分の申し立てを行い、当該投稿に関するIPアドレス等の開示を受けた上で、
②アクセスプロバイダに対して発信者情報開示訴訟を提起し、投稿者の住所、氏名を特定する、という2段階の裁判手続を行う必要がありました。
このような2段階の裁判手続きを行うことは、被害者にとって負担が重く、投稿者を特定するための時間的、金銭的なコストを要することになります。そのため、被害者救済の観点から、簡易迅速に発信者情報の開示が受けられる手続が望まれていました。
⑵ 改正の内容
そこで、改正法においては、新たに、発信者情報開示命令という裁判手続が創設されました。
新たな裁判手続は、上述した①コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示請求と、②アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求の手続を、1つの裁判手続内で実現することを目的としています。
細かい手続を説明すると複雑になってしまうので、ポイントを簡単に説明します。
従来の手続と大きく違うのは「提供命令」という制度ができたことです。
従来の手続では、コンテンツプロバイダから開示を受けたIPアドレス等を基に、被害者がアクセスプロバイダを調査した上、アクセスプロバイダに対してコンテンツプロバイダから取得した情報を提供する必要がありました。
これに対し、「提供命令」という制度により、発信者情報開示命令の裁判手続内において、コンテンツプロバイダにアクセスプロバイダを調査してもらい、アクセスプロバイダの情報の提供を受けることができるようになります。
そして、同一手続内において、被害者は、コンテンツプロバイダから提供を受けたアクセスプロバイダに対して発信者情報開示命令の申立てを行うことができます。
アクセスプロバイダに対して申立を行い、その旨をコンテンツプロバイダに通知すると、コンテンツプロバイダからアクセスプロバイダに対して、コンテンツプロバイダが保有する発信者情報が提供されます。
このような流れを極めて大まかに説明すると、「提供命令」ができたことにより、今までは被害者が行っていたアクセスプロバイダの調査とアクセスプロバイダへの情報提供を、コンテンツプロバイダが行ってくれるようになる、といえます。
これにより1つの手続内で発信者情報開示請求を完結させることが可能となり、被害者の負担が軽減されることが期待されています。
⑶ 従来の制度との関係性
新たに創設された発信者情報開示命令の手続は、従来の発信者情報開示手続に加えて創設されたものです。 そのため、被害者は、新たに創設された発信者情報開示命令手続と従来の手続のいずれかを選択できます。
どちらを選択するかは、事案に応じて検討することになりますが、権利侵害が明白であり争訟性が低い事案の場合には、発信者情報開示命令事件を選択することが想定されます。
これに対し、権利侵害が明白ではない場合など、「提供命令」に対してコンテンツプロバイダが争ってくることが想定される事案では、発信者情報開示命令を選択するとかえって時間がかかる可能性もあるため、従来の2段階の裁判手続も検討することになると思われます。