団体交渉でやってはいけない10の対応
(1)上部団体の役員の出席を拒否する
会社と従業員の間の労働条件などに関して交渉する場合、会社とは何ら関係のない労働組合の上部団体の人間がなぜ出てくるのかと疑問に思う会社の担当者が多いようです。しかしながら、労働組合法上、使用者は上部団体の団体交渉の申し入れには応じなければなりませんし、上部団体の役員の参加を拒めないとされています。
何も知らずに上部団体の役員の参加を拒んだりすると、労働組合は猛烈に抗議をしてきます。その時点で初めて違法行為を行ったことを知る会社の担当者は少なくありません。
こうなると、労働組合から謝罪を求められ、会社にとって不利なペースで団体交渉が進められることになります。一見関係の薄い上部団体の役員であっても、団体交渉への参加を拒否することなく、団体交渉を行いましょう。
(2)社内の施設や労働組合事務所で団体交渉を行う
労働組合は、社内の施設や労働組合本部の事務所で団体交渉を行おうとします。しかしながら、団体交渉を会社の施設や労働組合の事務所で開催する必要はありません。団体交渉を会社の施設や労働組合の事務所で行ってしまうと、次回以降も労働組合の活動で会社の施設を使用することを拒否できなくなったり、団体交渉に無用の混乱をもたらす原因になったりします。
(3)所定労働時間内に団体交渉を開催する
労働組合が、所定労働時間内に団体交渉を開催するよう要求してくることがあります。これを認めてしまうと、仕事を中断して団体交渉を開催することになり、後々、団体交渉開催中の賃金を支払うように要求されかねません。使用者は、従業員が団体交渉や労働組合活動に費やした時間に対して賃金を支払う必要はありませんが、そもそも所定労働時間内に団体交渉を開催しなければ、賃金に関する不要なトラブルを避けることができるはずです。
(4)労働組合員全員が誰であるかわかるまで団体交渉を行わない
労働組合結成直後は、労働組合員が誰なのか不明な場合があります。会社によっては、どの従業員が労働組合に加入しているのかわかるまでは団体交渉に応じないという場合がありますが、労働組合には労働組合員を明示する義務がありません。
労働組合員が全員わかるまで団体交渉に応じないと、団体交渉拒否として不当労働行為となるおそれがあるため、まずは団体交渉に応じましょう。なお、はじめは労働組合員が誰であるかわからない場合でも、時間が経つと判明する場合が多いため、結成当初はあまり神経質になるべきではないでしょう。
(5)労働組合が用意した書類にサインをしてしまう
労働組合によっては、団体交渉終了後に議事録と称した書類にサインを求めてくる場合があります。会社の担当者の中には、議事録だからといって安易にサインをしてしまうことがあります。
しかし、議事録でも覚書でも、文書の名称は何であれ、労働協約の様式を備えていれば、その文書が労働協約として効力を有することがあります。安易にサインに応じると、会社に不利益を与えてしまいます。したがって、どのような文書であってもすぐにはサインに応じずに、一旦会社に持ち帰る旨を伝えて、団体交渉の場では安易にサインをしないようにしましょう。
(6)組合の要求をのまないと不当労働行為になると思ってしまう
労働組合法は、使用者に対し、団体交渉に応じ、誠実に交渉する義務を課しています。このことを勘違いし、労働組合の要求に応じないと不当労働行為になってしまうと思う方も少なくありません。
もちろん、組合の要求に対して、会社の主張を裏付ける資料を提出したり、具体的な事実を説明する必要はありますが、会社が労働組合の要求をそのまま受け入れなければ不当労働行為になるというわけではありません。会社が受け入れることのできない労働組合の要求であれば、具体的な資料や論拠にもとづいて説明した上で、要求を拒否してもかまいません。
(7)労働組合結成後、組合をやめるように説得する
労働組合結成直後、会社が労働組合員に対して労働組合をやめるように説得することがあります。このような行為は労働組合の運営に介入するものであり、支配介入行為として禁止されています。
労働組合員は、色々なことを考えた上で労働組合に加入しているわけですから、会社が労働組合をやめるように要請したからといって、素直に労働組合をやめるようなことはありません。むしろ、このような発言は、労働組合に会社を攻撃する材料を与えることになります。
(8)関係会社の問題なのに親会社が団体交渉に参加してしまう
多数の関係会社を有している比較的規模の大きな会社の場合、関係会社の従業員が合同労組に駆け込むこともあります。このような場合、合同労組は従業員が勤務している関係会社だけではなく、親会社に対しても団体交渉を要求することが多々あります。
合同労組と関係会社の従業員との問題であり、親会社は全く関係が無いにもかかわらず、合同労組によっては、執拗に親会社との団体交渉を主張してくる場合があります。
会社によっては、これに応じてしまうところもありますが、一度団体交渉に応じてしまうと、その後も団体交渉に応じざるを得なくなります。法的には、関係会社と親会社が一定以上の密接な関係にあれば団体交渉に応じる義務があるといわれていますが、はじめから親会社が団体交渉に応じるべきではありません。
(9)掲示板の貸与や就業時間中の組合活動を認めてしまう
複数の従業員が組合を結成した場合、労働組合は会社に対して便宜供与を求めることがあります。しかし、労働組合法第7条3号は、「労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること」を不当労働行為として禁止しています(例外として必要最小限の広さの事務所の供与をすることは容認)。また、会社は施設管理権を有しており、建物や設備を会社の裁量のもとに管理できるため、組合に掲示板を貸与するかどうかを決定することができます。
就業時間中の組合活動については、就業時間中は職務に専念する労働者の義務を履行するように会社が求めることで、就業時間中の組合活動を禁止することは原則として自由です。
会社の施設や人員に余裕が無い場合は、そのことを具体的に説明して便宜供与を断っても、何ら不当労働行為にはあたりません。
(10)訴訟中であることを理由に団体交渉を拒否してしまう
従業員が合同労組に加入して団体交渉を続けても、会社と合同労組が合意に至らない場合が多々あります。団体交渉で解決が図れないと合同労組が判断した場合、労働審判を申し立てるなどの法的手続きを取る場合があります。
それと平行して団体交渉を申し入れる合同労組もあります。この場合、「訴訟で争っているので団体交渉を開催する必要はない」と会社の担当者が主張することがありますが、訴訟が進行中であっても団体交渉を拒否することはできません。
したがって、原則として団体交渉には応じてください。もっとも、議題は進行中の訴訟内容と重複するでしょうから、団体交渉では、「訴訟で主張しているとおり、会社は○○○と考えている」と述べざるを得ないでしょう。
専門家に相談しましょう
団体交渉で会社にとって不利益をもたらさないようにするためには、事前の対策が重要です。弁護士などの専門家に相談して、十分な準備をしてから団体交渉に臨みましょう。