完全合意条項とは何でしょうか。
完全合意条項とは、「当事者間の合意内容が契約書に全て記載されており、契約交渉過程での合意は契約内容に含まれないこと」を確認する条項です。例えば、当事者間に、契約書とは別の口頭の合意が存在していたという主張を許してしまうとすれば、法律関係の予見可能性を損なう恐れがあることから、かかる恐れを排除するために規定されるものです。
もともとは、英文契約書に盛り込まれている「Entire Agreement」条項に由来するもので、留学経験を経た弁護士が関与するファイナンス関連契約やM&A契約等に多く見られましたが、最近では、英文契約書の影響を受けて、日本企業間の契約書においても、完全合意条項が盛り込まれる例も増えています。
完全合意条項は、契約締結過程において、契約書に記載された内容と異なる合意をした場合に、その効力が問題となります。なぜなら、日本の民事訴訟においては、契約書に記載されていない事実も契約の解釈にあたって斟酌されるからです。
完全合意条項に関する裁判例は、あまり多くありませんが、東京地判平成7年12月13日では、契約書に完全合意条項があり、かつ契約の締結に関与した者が、いずれも会社の役員(被告側の役員2名は弁護士保有資格者)や弁護士であり、契約書に定められた条項の意味内容についても十分理解しうる能力を有していたことから、完全合意条項に、その文言通りの効力を認めるべきという内容の判示をし、結論として、契約書の文言のみに依って契約を解釈すべきとの被告の主張を認めました。
このように、日本法においても、完全合意条項は一定の範囲では効力が認められています。
もっとも、上記の通り、この裁判例の事案では、契約締結に関わった者が弁護士や会社役員といった、完全合意条項の内容を十分に理解することができる能力を有している者であったという事情があり、契約締結に関与した者の法的知識によっては完全合意条項の効力が否定される可能性もあります。
また、日本における伝統的な契約書の内容は、非常に簡潔なものが多く、必ずしも契約書の条項に十分な明確性、詳細性があるわけではないことから、そもそも、契約書に完全合意条項を盛り込むことが適切な事案かどうかについても、契約内容にかんがみて、十分に検討する必要があります。
完全合意条項は、実務上、契約書の最後の方に規定されている場合が多く、当事者としても見落としがちですが、上記の通り、契約に関する紛争が生じた場合の当事者の合意内容の判断に大きな影響を与えることがありますので、契約締結交渉の際には、注意が必要です。