解雇と退職の違いはなんですか。
解雇とは、使用者による労働契約の解約のことをいいます。
ポイントは、使用者によりなされるという点です。したがって、労働者による解雇というものは存在しません。
労働者による労働契約の解約は、一般に辞職(退職)と呼ばれ、使用者、労働者のどちらによる解約かにより、解雇と辞職(退職)と法的には、その用語が使い分けられているのです。
この点、解雇も退職も、労働契約を終了させる行為という点では共通ですが、期限の定めの無い雇用契約の終了という観点から見た場合には、定年の他、①従業員と使用者の合意による雇用契約の終了(雇用契約の合意解除)、②従業員からの申し出による退職(民法627条)、③会社からの一方的通知による解雇の3つに分けられます。
①は合意、②と③は当事者の一方からの申し出だけで実行される点が違いです。また、日本の場合、①は合意だけが条件なので、その終了に至る理由は問いません。ただし、失業保険等公的給付などとの関係では、離職理由が、会社都合なのか、自己都合なのか、という点は別途決定される必要があります。また、解雇の理由の告知については、労働基準法の次の規定があります。ただし、実際には、その理由は形式的に就業規則〇条に該当するため、等で済まされてしまうことが多いように感じます。
第二十二条 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 労働者が、第二十条第一項の解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。ただし、解雇の予告がされた日以後に労働者が当該解雇以外の事由により退職した場合においては、使用者は、当該退職の日以後、これを交付することを要しない。
そして、②については、原則退職日の2週間前に申し入れる必要がありますが、それ以外の制限はなく、また、それを制限する合意をしても無効と理解されています。退職代行などがニュースで話題になりましたが、退職それ自体は、禁止することができないのです。
次に、③は、普通解雇と懲戒解雇の2種類があります。懲戒解雇は、予告手当が不要、また、懲戒処分としてなされるため、実際には退職金の支給にサンクションがあることが通常など、普通解雇に比べて不利益が大きいため、普通解雇よりも条件が厳しいです。そのため、どうしても解雇する場合には、よほどの事情が無い限り、懲戒解雇ではなく、普通解雇で済ます方が穏当なケースが多いと思います。
さらに、次に述べる解雇権濫用法理との関係で、現実には解雇を裁判所に認めさせるのは、困難なケースが多いため、通常のケースでは、退職勧奨の結果として、①か②で雇用契約を終了させることが多いと言えます。
解雇に対する制限としては、育児介護休業法10条等の特別法による規制の他、一般的な規制として、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とされます(いわゆる従前からの解雇権濫用法理の裁判所の考え方を明文化したものです。)。この労契法16条の解雇権濫用法理が、日本の解雇制度において、極めて重要な意義を有しています(いわゆる解雇紛争は、ほぼこの点が争われることになります。)。
なお、いわゆる「整理解雇」については、この解雇権濫用法理という大枠の中で、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続きの相当性(いわゆる4要件ないし要素)を中心に検討され、これらを総合的に判断することで、解雇権の濫用かどうか、が結論付けられています。
ところで、諸外国と異なり、裁判所が、解雇に伴う又は解雇を認める条件として金銭補償を決定する制度が存在しません。この点は、昔から法改正の必要性含め、種々議論されているところですが、現状は裁判所が金額を定める制度が無いため、解雇事案の金銭的解決は、もっぱら当事者間の和解協議の中で、一般的に形成されている相場や解雇事由として考慮できる事情が、解雇を相当とするに満たないにしても、どの程度あるのか、等を踏まえて合意で決定されることになります。