契約書を作成しなければ契約は成立しないのでしょうか
A 一般的に、契約は、口頭の約束だけでも有効に成立します(ただし、保証契約など、書面で締結しなければ効力を生じないものや、下請業法等の法律によって、書面の作成が義務付けられている契約もあります)。 したがって、例えば売主と買主の間で「Aという商品を1万円で売る(買う)」という合意をすれば、契約書を作成しなくても、その時点で売買契約が成立することになります。
しかし、実際には貴社が取引を始めるにあたっては、契約書を作成することが必要と言えるでしょう。
契約書の作成は、①契約成立の確実な証拠となり、②契約途中に紛議が生じた際の解決の指針となるため、紛争予防にとっても必須と言えるからです。
①について
例えばシステム開発契約のように、最終的な仕様が当初の段階では確定していないような契約は、実際には最終的な成果物の内容が確定される前に受任者側で先行して作業に入ることが多いと思います。このような場合、受任者側でも相応のコストと時間をかけて作業に入りますが、最終的な契約書面締結前に、発注者側が計画を撤回すると判断した場合、何らの契約が成立していないとすると、費用や報酬の請求を理屈づけること自体に論点を生じることになります。請求できる損害の範囲についても議論を生じます。このような複雑な契約でなくても、一般の設計業務についても、同様なケースは発生しうると思います。このような場合で、本来的には報酬を請求したいと考えている場合には、段階的な作業に応じた契約内容の契約書を作成するか、少なくとも受発注書のやり取りは必要でしょう。
②について
言うまでもありませんが、民法商法その他の法令等が定めているのは、一般的な原則論です。実際に紛議が生じた時に、具体的な事実関係に、どのように法令が適用されてどのような効果が生じるのかは、契約書で明確に定めておかないと、当事者だけでは解決できなくなり、法的手続が必要になる場合があるなど、解決までに時間がかかる、さらには結果に対する予測が困難になるケースが生じます。また、原則に対する例外や修正を定めるべきケースもあるでしょう。この場合、契約書で定めておかないと、口約束は水掛け論になりがちなので、合意の存在を証明することは容易ではありません。
以上のとおり、契約の成立には、必ずしも契約書の作成が必須ではないと一般的には言えますが、実際に取引を開始するにあたって契約書が必要か、という観点から回答するならば、必要である、ということになります。
なお、契約書の内容として規定する事項についても、当事者の合意によっても修正できない強行法規や、定めることが許されない規定などもあります(下請法や独禁法などの規制)。また、規定相互の関係や、規定の解釈を巡って争いが生じる可能性もございますので、契約書の作成にあたっては、弁護士に相談されることが穏当でしょう。
以上