賃金を残業代込みで支払うことはどのような場合に許されるのでしょうか。
当社は、残業代を計算する手間を省くために、賃金を残業代込みで多めに支払っており、従業員にも「残業代込みの賃金だよ」と言っていたのですが、先日、そのようなやり方では残業代を支払ったことにはならないという指摘を受けました。違法な会社だと言われないようにするため、今後どのような制度にすればよいのでしょうか。
固定額の支払いをもって残業代の支払いに代える、いわゆる「固定残業代」の制度(「労働者側のよくある質問」Q17でご紹介したような「定額手当」を支給する場合と、本問のような残業代を基本給に組み込んで支給する場合とがあります)が有効になるためには、
- ①固定額の支払いが残業代としての性格を有しており、
- ②残業代部分とそれ以外の賃金部分とが明確に区別され、
- ③固定額が法で定められた金額を下回るときにはその差額を精算する取り扱いがなされている、
などの要件を充たすことが必要です。
したがって、残業代を基本給に組み込んで支給するという制度を維持するのであれば、少なくとも、就業規則や給与明細に、「〇時間分の残業代として〇円を支払う」ということを明確にした上で、実際の残業時間に対して法に基づいて計算した金額が、固定残業代を下回る場合には、その差額を支払うという制度にする必要があります(なお、「定額手当」を支給する方法による場合には、別途留意すべき点があります)。
また、固定残業代の制度を用いても、結局残業代の計算をする手間を省くことはできませんので、同制度は廃止にして、基本給に加えて実際に残業をした時間分の割増賃金を支払うルールに変更することも考えられるでしょう。
ただし、従前のやり方では、判例上、残業代込みの賃金を基礎として、実際の残業時間に応じた残業代を計算することになりますので、新しい制度に変える際に、固定残業代部分を除いた分を基本給にするという扱いにすると、その分従業員の基本給が減るということになります。
こうした変更は、労働条件の不利益変更に当たりますので、原則として、従業員の同意が必要になります。
法令を遵守したルール作りのためには、経営的視点と法的視点の双方から、様々な検討が必要です。
就業規則の見直しや従業員への対応の仕方等、是非一度ご相談下さい。